新着図書紹介

関口良雄「昔日の客」(夏葉社,2010)

昭和53年,大正7年生まれの古本店主であった著者が癌でこの世を去った翌年,
息子さんの編集により三茶書房から出版された随筆の復刊である.最近は随筆で
なくエッセーと呼ばれることが多いが,正しく本書にある約30編は「随筆」の名に相応しい.
昭和32年の正宗白鳥に始り,上林暁,尾崎一雄,尾崎士郎といった今や日本の文学史に
名前は残るものの,一般に読まれなくなった作家と古本屋の親爺さん(今も松江では「たぬ
き堂書店」にいらっしゃるような)とのセピア色の付き合いが描かれている.新しい小説家
が見せる香りも味も悪くないが,この本から漂う古い革袋の古酒の芳醇さは,電子本で読
んだのではその良さが分からないだろう.この本のタイトルとなった「昔日の客」とは誰あろ
う,昨年このコラム第1回で紹介した「夕暮れの緑の光」(みすず書房の「大人の本棚」シ
リーズ)の著者である野呂邦暢さんである.まだ売れない作家の野呂さんが故郷諫早に帰
郷する時,欲しい本を前で躊躇していたところ,店主関口さんが「手持ちだけで良い」と言っ
て売ってくれたという.芥川賞を受賞後の新しい作品に野呂さんが「昔日の客より感謝を
もって」と書いて渡された話である.こんな心温まる一編でも読んでもらえたらと思います.
 

宍道 勉

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